今回のテーマ:高齢者雇用の現状と課題を整理し、シニア人材活用に向けた未来をシミュレーションする
今回の目的:高齢者の労働力人口の将来見通しを検討する
前回の記事においては 日本の労働力人口が今後どのように推移するのかを考えるにあたり、女性の労働参加の影響について分析し、女性現役世代の労働力人口の推移について検証してきました。
今回は、労働力人口の増加に大きな影響を与えてきたもう一つの要因である、高齢者の労働力人口の将来見通しについて検討していきたいと思います。
高齢者の労働力人口の推移を考えるにあたり、まずは過去の65歳以上高齢者の労働力人口の推移を振り返りましょう。
65歳以上の労働力人口は1996年から2022年までの間に482万人増加しています。 しかし、この間労働力人口比率はそれほどほど大きく変化はしていませんでした。労働力人口が大幅に増加したのは、65歳以上の高齢者の人口の絶対数が増加したためであり、その分労働力人口が増加したというのが 2022年までの傾向です。

この傾向が今後も続くのか、高齢者の絶対数の変化と労働力人口比率の変動要因の二つの観点から検証します。
65歳以上人口の推移予測
65歳以上労働力人口の将来を考えるあたり、今回も人口と労働力人口比率の二つの観点がどう変化するのかを考えていきたいと思います。

まずは、65歳以上人口がどのように推移するのかを見てみます。

国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、65歳以上の総人口は2022年→2045年は320万人程度増加する予測ですが、その後は減少すると予測されています。人口増に従って労働者数も増加すると考えて問題ないのでしょうか?
ここで一点考慮しなければならないのは、高齢者は年代によって大きく労働力人口比率が大きく異なる点です。

65歳以上の年齢階層別の労働力人口比率を見てみると65歳から69歳の労働力人口比率が最も高く50%を超えていますが、75歳以上になると10%程度にまで低下する状況が見て取れます。
また一方、年齢階層別に将来人口の予測を見ていくと、今後は75歳以上の高齢者の方が増加すると予測されおり、労働力人口比率の高い65歳から69歳の階層の人口は減少傾向にあることがわかります。

労働力人口比率が今後も変化しないと仮定すると、75歳以上の人口増加と65歳から74歳の人口減少により、高齢者の労働力人口はほぼ横ばいか減少すると推測されます。
65歳以上労働力人口比率の推移予測
次に、労働力人口を左右する労働力人口比率が今後どのように推移するのかについて検討したいと思います。
①年齢階層別の労働力人口比率の推移

65歳以上の労働力人口比率は年代別で大きな差があることを見てきました。概ね2011年を頃を境に65歳から74歳の労働力人口比率が上昇し始めており、65歳か69歳については37%から51.7%まで上昇しています。また、70歳から74歳については22%から30%まで10%程度上昇してきています。一方で75歳以上については近年若干上昇しつつあるもののそれでも10%前後でそれほど大きく上昇してはいません。
65歳から74歳までの労働力人口比率が上昇してきた背景にはどのような要因があるのでしょうか。この要因を探ることで今後も労働力人口比率が上昇し続けるのかどうかということについて考えてみたいと思います
②高齢者の意識の変化
高齢者の意識の変化を確認します。まずは、仕事をしている主な理由を見てみましょう。

こちらは、内閣府が、65歳~69歳の現在仕事をしている方を対象に、現在仕事をしている理由を調査した結果になります。働く理由として一番多いのは、「収入が欲しいから」ということになっています。これを選んだ人の割合は2000年には40.8%と一旦1995年調査と比較して低下したものの、そこからは一転上昇し始めて、2010年から2015年の間では一気に5ポイント程度上昇しています。
次に、高齢者世帯の所得や貯蓄額の変化を見てみましょう。

こちらは厚生労働省による、65歳以上のが世帯主の世帯における平均所得と貯蓄額の推移の調査になります。平均所得・貯蓄ともに少しづつ減少傾向にありますが、急激な減少があるわけでもなさそうです。

一方、こうした状況を受けてか、高齢者に対して自らが保有する資産が今後の生活に向けて十分かどうかを質問した調査においては、十分だと思うと回答した人の割合は減少傾向にあるのがわかります。また、2020年にはわからないと回答している人が増加しており、将来の見通しに対して不安を持つ人が増加していると考えられます。
労働力人口比率が上昇してきた背景には、現実的に収入や貯蓄が減少したわけではないが将来的な蓄えに不安あがあり、収入を得たいと思うようになった65歳以上の方が増加してきていることも要因といえそうです。
高齢者の将来の蓄えに対する不安が増大している背景にはどのような要因があるのでしょうか。
一つの要因として、高齢者の単独世帯の増加という背景があるかと思います。

2000年と比較すると2021年には高齢者の単独世帯は2.4倍に増加しており、高齢者夫婦のみの世帯も1.94倍に増加しています。
子供達との同居がなくったため、家賃や生活費などを自立して賄う必要が高くなっている世帯が増えていると推察されます。
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また、単独世帯の内訳をみると女性の割合が高く、かつ今後も女性の単独世帯が増加していくことが予測されています。女性の高齢者にはかつて主婦だった方も多く、年金受給額が減少する方もいらしゃるかもしれません。その場合、将来に対する不安が増加する可能性があります。
今後女性の単独世帯の増加するにつれ、収入への不安から働かざる得ない高齢者が増加する可能性が考えられます。
④人手不足の影響

上記のグラフは、失業率と65歳以上の労働力人口比率の相関を見ているグラフになります。
65歳以上労働力人口比率は日本全体の失業率が高い期間は低下しており、失業率の改善とともに再び上昇している傾向がみられます。失業率が高い状況では65歳以上の就職口も限られているでしょうから、条件に合うような雇用機会がなく、そもそも働くことを諦めた65歳以上の方が増加していた可能性が高いと考えられます。
逆に2013年以降、現在に至るまで失業率は改善し、現在の失業率は3%未満で完全雇用の状態で、人手不足の状態に陥りつつある状況です。高齢者であっても雇用機会を見つけやすい環境になってきており、働き先を見つけやすくなっていることも高齢者の労働力人口比率が高くなってきている要因の一つとして考えられると思います。
また、政府としても高齢化の動きに合わせて、シルバー人材センターやキャリア人材バンクなど高齢者の就業機会を拡大するためのマッチングのための仕組みや、企業側にも65歳超雇用推進助成金を支給するなどし、高齢者の雇用の促進を図ってきたことも背景にはあると考えられます。
⑤他国との労働人口比率の比較
下記は65歳以上の労働力人口比率について主要国のデータを比較したものとなります。

これを見ると、日本の65歳以上の労働力人口比率は既に比較的高い水準にあることがわかります。ただし、まだ韓国に比べると低いことを考えると今後比率が高まる余地もあると考えられます。韓国では年金制度の未成熟で給付金額が低いことや高齢者の貧困率の高さ、早期退職の慣行などが背景にあり、高齢者が働かざる得ない環境にあるとされ、労働力比率を高める要因となっています。日本においても、高齢者の生活環境が厳しくなれば同じように労働力比率が上昇してくる可能性が高いと考えられます
65歳以上の労働力人口比率は今後どうなるのか?
65歳以上の労働力人口比率は年代によって大きな差があり、労働力人口比率の高い65歳から75歳の労働力人口比率については近年高い水準まで上昇してきていました。また諸外国と比較してもすでに65歳以上労働力人口比率の割合は高い水準にあることも見てきました。
一方、高齢者の世帯構成に変化があり、老後においても自立して自分の生活を支える分の収入を稼ぐ必要がある世帯の割合が増加してきています。加えて、年金の給付水準が低い単身高齢者世帯も増加する可能性もあり、働かざるを得ない高齢者が増加してくることが予想されます。
また、日本全体の失業率が低く人手不足状態に陥っているなかで、高齢者雇用を促進する政府の動きもあり、働きたい高齢者にとっても職を得やすい環境がますます整備されていくと考えられます。むしろ今後人口減少社会において人手不足を解消するためにも、働ける高齢者の方には働いていただく必要があるのではないでしょうか。政府・企業とも高齢者の働きやすい環境づくりに積極的に取り組んでいく動きが加速すると思われます。
高齢者の労働力人口比率はすでに高水準にありますが、今後も上昇が見込まれます。
65歳以上人口の労働力人口のシミュレーション

労働力人口比率に変化がない場合は、 最も労働力人口比率の高い、65歳から74歳までの高齢者の人数が減少するため、 65歳以上の労働力人口は、2045年までは、2022年の時点の水準と同等程度の状態が続き、それ以降は減少に転じる流れになると推計されます。
一方、労働力人口比率が過去10年間と同様のスピードで今後上昇する場合は、65歳以上の労働力人口は増加し、現状よりも1.5倍程度多く供給される可能性もあることがわかります。
今後の日本における労働力不足を考えた場合に、高齢者の方に働いていただくことは一つの有力な解決策になるのではないでしょうか。
高齢者労働力人口の拡大に向けた課題 シニア採用に消極的な企業が多数
高齢者の労働力人口については高齢者の側からみると拡大する可能性が高いことをみてきました。しかし、現状では企業の対応に大きな課題があることが、リクルート「シニア層の就業実態・意識調査2023」から明らかになっています。
同調査によると、企業におけるシニア採用の積極性を尋ねた結果、「積極的ではない」または「どちらかといえば積極的ではない」と回答した企業は、正社員採用で69.3%、アルバイト・パート採用でも66.4%に上っています。驚くべきことに、慢性的な人材不足を抱える企業においても、シニア採用に消極的な企業は多く、正社員では61.6%、アルバイト・パートでは36.0%が「積極的ではない」と回答しています。
こうした傾向の背景には、明確な理由があるわけではないケースが多く、「特に理由はない」という回答が上位に挙げられています。つまり、多くの企業がシニア人材に対して積極的に向き合っておらず、裏を返せば、シニア活用に対する方針や戦略すら持ち合わせていない企業が多いことを意味しています。
一方で、シニア採用に積極的な企業には明確な共通点があります。それは、年齢ではなく「適性・実力」を重視した採用方針を取っているという点です。
- 求める人材像に合っていれば年齢は問わない
- 年齢にとらわれず、ポジションにふさわしいスキルや経験を重視
- フルタイムに限らず、柔軟な働き方を提示している
こうした企業では、シニア人材の豊富な経験や安定性を競争優位として活かしており、人手不足の中でも即戦力を確保できる環境を整えつつあるといえるでしょう。
加えて、これらの企業は採用方針のみを変えているわけではないにとにも注目すべきかと思います。高齢者雇用において最も不安要素になるのは体力であると調査からも明らかになっています。
高齢者を採用して戦力化していくには、こうしたボトルネックになっている要因を取り除いていく工夫も必要ではないでしょうか。そのためには高齢者が得意な領域を見極めポジションを作ったり、ITやAIなどを活用して働きかたや業務プロセスを改善して、高齢者のように体力がなくても業務が遂行できるようにしたり、することも必要かと思います。
今後はこれまでのように派遣のような安い人件費に社員の仕事を代替させるのではなく、AIなど活用し仕事そのものはITやAIが担うものの、その監督や管理を人が担うような形に変化していくものと思われます。そうした監督や管理のような仕事であれば、一定の技術的な知識などは必要になるかもしれませんが体力的なボトルネックは仕事のやり方・進め方を見直すことで解消する可能性が高いと思われます。
今後、国内の労働力人口が減少していく中で、企業が持続的に事業を推進するためには、年齢や性別にとらわれない実力主義の採用へと舵を切る必要があります。幅広い人材プールから優秀な人材を発掘し、多様な働き方を受け入れる体制づくりが、企業にとって喫緊の経営課題であることは間違いありません。加えて、抜本的な仕事や業務の見直しを行うことが、事業の生産性向上に加えて、必要な労働力を確保するうえでも重要になると考えられます。

